実業団の野球選手として毎日を練習に捧げながら、同時に経済的な悩みと向き合う日々が続いていました。遠征費や専門的な道具代、さらには自分のコンディション管理に必要な費用など、競技を続けるためには想像以上のお金がかかります。チームの給与だけでは到底足りず、何か副業を探さなければいけないという状況に追い込まれていたんです。体力には誰にも負けない自信がありましたが、接客経験はほぼゼロ。そんな自分が本当に出張ホストなんて務まるのか、正直かなり不安でした。
求人サイトで「稼げる」という言葉に惹かれて、新宿の出張ホスト求人に応募したのは、昨年の秋のことです。面接では自分の立場をありのまま説明しました。実業団選手であること、副業が必要な理由、そして接客の経験がほぼないということも。採用担当者は、そんな自分の事情をしっかり聞いてくれて、応募を受け入れてくれました。その時点では、この決断が自分の人生にこんなに大きな影響を与えるとは思いもしませんでした。
体育会系の礼儀正しさが信頼に変わった
仕事を始めた当初は、本当に戸惑うことばかりでした。どうやってお客様と会話を進めたらいいのか、どんな振る舞いが喜ばれるのか、そもそも自分には何ができるのか。野球では先輩後輩の上下関係がはっきりしていて、やることも明確です。でも出張ホストは違いました。相手の気持ちを読み取りながら、その人に合わせた対応をしていく必要があります。最初の数週間は、せっかく来てくれたお客様に失礼なことをしないかと常に神経を張り詰めていました。
それでも、野球で培った習慣が自分を救ってくれました。体育会系の世界で叩き込まれた礼儀正しさ、真摯に相手と向き合う姿勢、報告・連絡・相談を大切にする習慣。これらが、思わぬ形で出張ホストの仕事で活きたんです。完璧な接客ができなくても、誠意を持って対応することの大切さを、野球を通じて学んでいたんだと気づきました。
驚いたことに、この真摯な態度がお客様の信頼につながっていったのです。指名が少しずつ増えていき、3か月目には月に数本の定期的な指名をいただくようになりました。リピートしてくださるお客様からは「誠実だから安心できる」というお言葉までいただきました。接客技術よりも、相手に向き合う姿勢が何より大事だということを、この仕事を通じて改めて実感しました。
朝の練習と夜の仕事、時間をコントロールする工夫
練習と仕事の両立は、最初想像していた以上に大変でした。朝5時に起床して練習に臨み、終わってから寮に帰って休息を取る。その後、夜間の仕事に備えて軽食を摂り、頭をリセットしなければいけません。疲労が溜まれば、野球のパフォーマンスに直結します。同時に、仕事で指名をくださるお客様に失礼のないようにしなければいけません。この両立は、当初は本当に綱渡りのようでした。
転機が訪れたのは、仕事を始めて1か月半ほど経ったときです。スタッフの先輩が、自分の生活リズムをどう管理したらいいか親身になって相談に乗ってくれました。その方は「野球選手として必要な休息時間を優先させながら、その中でスケジュール調整をしよう」と提案してくれたんです。その助言のおかげで、無理のない範囲で週に2〜3日の出勤ペースを作ることができました。
ここで気づいたのは、体力づくりで培った自己管理能力が、スケジュール調整にも役立つということです。野球では、オフシーズン中のトレーニング、シーズン中のコンディション管理、試合前の調整など、細かく計画を立てていました。その経験が、練習と仕事をどうバランスさせるかという問題を解く鍵になったんです。今では、生活リズムを整えることの大切さをより深く理解できるようになりました。
お客様からの応援が、競技への情熱を呼び覚ます
働いていく中で、本当に嬉しい経験をたくさんしました。その中でも特に印象的だったのは、お客様から野球の話を聞かれることが増えたということです。実業団選手として頑張っていることを話すと、「応援してます」「頑張ってください」という温かい言葉をかけていただくようになりました。
中には「野球の試合、見に行きたいな」とおっしゃってくださるお客様もいて、その言葉を聞いたときは本当に胸が熱くなりました。自分の競技活動を応援してくれる存在が、仕事を通じて増えていく。これは、お金を稼ぐこと以上に大切な出来事だったんです。野球を続ける理由、その先にある目標をもう一度思い出させてくれました。
出張ホストの仕事をしていなかったら、同じような応援の言葉を聞くことはなかったでしょう。仕事を通じて出会ったお客様の励ましが、競技への情熱を改めて実感させてくれたんです。これは、実業団の仲間からの励ましとは別の、特別な力を持っていました。
チームメイトの理解と、仲間との絆の深まり
最初は、チームメイトに出張ホストの仕事をしていることを言うべきか悩みました。野球の世界は閉鎖的な部分も多く、副業について理解を示さない人もいるかもしれません。でも、正直に自分の状況を説明することが、結果的に仲間との信頼関係を強くしたんです。
チームメイトに少しずつ話していくと、意外な反応が返ってきました。「経済的な事情で副業をしている」という状況よりも、「練習と仕事を両立させながら頑張っている」という姿勢を評価してくれる人が多かったんです。中には「応援してるよ」と声をかけてくれる仲間も増えました。その言葉が、どれほど心強かったか。競技と仕事の両立という選択が、決して恥ずかしいことではなく、むしろ自分の目標達成へのプロセスなんだと認識できるようになりました。
副業で得た収入を競技活動に還元する喜び
出張ホストとして稼いだ月給は、最初の数か月こそ月に15万円程度でしたが、指名が増えるにつれて月に20万円を超えるようになりました。これは、自分が必要としていた金額をちょうどカバーしてくれるものでした。遠征費、新しいグローブの購入、栄養管理のためのサプリメント、さらには専門的なトレーニング指導を受けるための費用。こうした競技に直結する投資を自分で賄えるようになったことの喜びは、何物にも代え難いものです。
実業団の給与も重要ですが、自分で稼いだお金で競技に投資するプロセスは、単なる経済的な補填ではなく、心理的な自立にもつながっています。「自分の努力で自分の夢を支えている」という実感が、競技への向き合い方もより真摯なものにしてくれました。
プロ野球選手という夢に向けて、今日も両立を続ける
現在の私の目標は、シンプルかつ明確です。出張ホストとして稼いだ収入を競技活動に還元しながら、プロ野球選手として活躍することです。実業団でのレギュラーポジション確保、さらにはプロ野球のスカウトの目に留まるようなパフォーマンスを発揮すること。これらはすべてつながっている目標です。
練習と仕事の両立は確かに大変ですが、もう「大変だから」という理由で諦める気持ちはありません。野球の練習で培った自己管理能力、出張ホストの仕事で身につけた対人スキル、そしてお客様やチームメイトからの応援。こうした全てが自分の力になっていると実感しています。
この仕事を始める前の自分は、「副業をするなら競技に支障が出るのではないか」という不安ばかりを抱いていました。でも今は違います。出張ホストの仕事が、私の競技人生を支える大切な存在になってくれたことに心から感謝しています。朝の厳しい練習も、夜の気を使う仕事も、すべてが一つの目標に向かう過程なんだと思えるようになりました。
社会人野球の世界は競争が激しく、毎日が本気の勝負です。そんな環境の中で、副業を通じて得られた経済的な安定感や、仕事を通じた人間関係の広がりは、単なる「稼ぎ」ではなく、競技に向き合う心の余裕をくれるものなんです。高額な収入を得られる環境で、誠実さと感謝の気持ちを忘れずに、一日一日を大切にしていく。それが、最終的には自分の夢実現につながるんだと信じています。
大樹 24歳 実業団野球選手

